忘年会で隣に座った脳外科のK君が面白い話をしてくれた。
彼は真面目な中堅で、門外漢の私の質問に丁寧に答えてくれた。
「脳外科の手術といえば、くも膜下出血の治療だけど、最近はどんな感じなの?」と、私が会話のネタが尽きた雰囲気の中で尋ねると、少し酒に酔いながらも、彼は真剣に答えてくれた。
脳動脈瘤の治療に関して、最近は、二刀流、即ち、カテーテル治療と顕微鏡手術の習得が重要と学会で言われることがあるそうだ。分かりやすく言うと、血管の中から脳動脈瘤にコイルを詰めるのがカテーテル治療で、血管の外から脳動脈瘤をクリップで挟むのが顕微鏡手術になる。
しかし、彼はそんな学会での見解に納得していないと言う。カテーテル治療の進歩は日進月歩で、それを習得するには、顕微鏡手術の習得に使う時間を削らないと、この働き方改革の中では、難しいと思うようになったそうだ。血管を繋げることや占拠性病変を取り除くことは、カテーテル治療ではできないので、顕微鏡手術についてはその2つを習得することに集中し、あとはカテーテル治療で対応することに集中した方が良いと思うと言っていた。
「それでも顕微鏡手術の方が優れていることもあるでしょう?」と聞いてみた。
確かに脳動脈瘤の再発率はカテーテル治療の方が多いが、そうであっても「頭を切る」ということに患者さんはかなり抵抗があり、同じように治療できるのであれば、カテーテル治療を希望することがほとんど、とのこと。そして再発率の高さに関しては、カテーテル治療の技術革新が徐々に解決してくれると思う、とのこと。再発率が高いといっても、実際にはそんなには高くない言っていた。
また、カテーテル治療では、術後に小さな脳梗塞を認めることが多いが、これは術中に血流に乗って血栓が飛んでいくため致し方ないことであり、それでも最近は抗血小板薬を十分に使用していることもあり、大分減っている、とのこと。
「じゃあ、脳梗塞は顕微鏡手術では起きないの?」と尋ねると意外な答えが返ってきた。顕微鏡手術においても、脳梗塞は起きる、とのこと。顕微鏡手術で、脳梗塞を自信を持って「起こさない」と言えるようになるには相当の鍛錬が必要であり、これだけ顕微鏡手術が減っている現状では、なかなかそれは厳しいと思うし、最近はそれをよく実感する、と言っていた。
「そうしたら、今では、ほとんどがカテーテル治療なのね?」と聞くと、「最終的には術者の判断になります」と言われ、結局のところよく分からなかった。