信号で待ちながら

恋人たちが手を繋いで、信号が青になるのを待っている。この田舎町では車の通りは少ない。待たずに渡ればいい。けれど、立ち止まり、たわいのない話をしていれば、この寒空のなか、互いの手の温もりを強く感じるであろう。

私は一人、職場での出来事を思い返して、いらいらしていた。なぜ、病院内にいるかもしれないからといって、時間外に当番でもない私のPHSに連絡してくるのだ。当番が電話に出ないのであれば主治医に連絡すればいい。さっき手術を終えたばかりであろう。私は危うく電車に乗り遅れるところだった。優しくありたいと思う。けれど、正当な主張はしたい。丁寧に、「今夜、私は当番ではないので、当番が電話に出ないのであれば、主治医に連絡してください」と言ったつもりだ。

信号が青になった。付き合って間もないのであろうか、少しぎこちなく、距離を置いた、それでいて楽しさに満ちた会話が、すれ違いざまに聞こえた。